さて、豫園商場とよばれる商業地域の真ん中には池があり、いくつか昔の建物が建っている。いずれも今はレストランとして使われている。
そのうちの一つは、小籠包(シャオロンバオ)で有名な南翔(ナンシャン)。ここのは全体的に固めで脂っこく、水餃子と小籠包の中間のような味がする。小籠包というと皮が柔らかく中はほとんどスープ、みたいなのに慣れていると、ほとんど別の食べ物のような気さえするのだが、この歯ごたえのよさが人気の秘訣なのか、いつも大行列ができている。
1階はテイクアウト。2階に上がると座って食べられるが、団体客で席が用意されていない限り、慣れない人は、混んでる日にはやめておいた方が無難だ。何しろすごい人気なので、席取りにも機敏さが要求される。もう食べ終わりそうかな?と思われるテーブルを一瞬で察知し、その人の後ろに立って待つ。お、食べ終わったかな?と思ったときにもう一せいろ運ばれて来たときの脱力感よ…。
上海も現代化したことだし、順にお呼び致します、という制度に変わってるかもしれないと思っていちおう覗いてみたが、ここは旧態依然であった。さすがに、食べてる人の椅子に足をかけて揺さぶってる人は、もういなかったけど…。
ということで向かいの風雅な「湖心亭」に行ってみた。ここは茶館で、昔から茶芸(中国茶のお手前)を見せてくれることで知られている。1階では茶芸の講習会が開かれている最中であった。2階に通してもらうと、池に面したテーブルは満席で、真ん中のテーブル席しか空いていない。
するとそこへ、細面で華奢な、いかにも上海っ子っぽい顔立ちの男の子が現れた。窓際の席が用意できたらご案内しますから、という。客を立たせておいたりはせず、真ん中のテーブルへメニューとおしぼりを出して、お好きなお茶を選んでいてくださいね、と去っていった。さすが国賓を接待する店だけあって、丁寧な接客ぶりである。
お茶の種類がいっぱいあって目移りする。普通のお茶の他に「工芸茶」というのもある。日本でも見かけるようになったが、茶葉と花を糸でしばって細工したもので、お湯を注ぐと美しい形に開く。
お湯を注ぐとこんな風にぽっかり浮かぶ
だんだん開いて
最後にはきれいな花が咲く。ちょっとグロテスクなところもいかにも中国らしくて好き。
ただ、工芸茶は独りで淹れても楽しめるので、ここは一つお手前を見せてもらおうと、「工夫茶」の方を注文する。工夫茶とは、下の写真のようにままごとのような茶器を使って淹れるお茶のこと。上手な人の手さばきは鮮やかで、いくら見ても飽きない。
上海近辺は、碧羅春(ぴろちゅん)など、緑茶の産地である。雨がそぼ降る湖のほとり、心静かに蓋椀(ふたつきのお茶碗)で緑茶を啜るの図、は憧れなのだが、工夫茶には合わない。工夫茶にするなら、青茶(ウーロン茶など半発酵のお茶)か岩茶だ。
お茶はもちろん、ここのお茶請けがまたとても良かった。豫園で売っている袋詰めのお茶請けを取り合わせてあった。ことに、このあたりで取れる小さなクルミをピリ辛に加工して作ったのが、青茶に合う。
ここの1階では、工芸茶を詰め合わせにして売っていた。日本円で1200円するので、相場からしたらかなり高いような気がしたが、綺麗な箱に入っているし、外で買っても値が張るものなので、おみやげにはちょうどよかったかもしれない。